2010年03月25日

セラピストの犯罪:「危ない精神分析」

数少ない精神分析批判の本のひとつ。

危ない精神分析―マインドハッカーたちの詐術

危ない精神分析―マインドハッカーたちの詐術

  • 作者: 矢幡 洋
  • 出版社/メーカー: 亜紀書房
  • 発売日: 2003/07
  • メディア: 単行本



これはダイレクトにフロイトを批判した物ではない。アメリカで大事件となった膨大な「父親レイプ告発事件」と父親による「娘&セラピスト告発事件」の顛末を紹介した物である。
それは日本では未だ一部に熱心な支持者がいる次の著作から引き起こされた。
心的外傷と回復

心的外傷と回復

  • 作者: ジュディス・L. ハーマン
  • 出版社/メーカー: みすず書房
  • 発売日: 1999/11
  • メディア: 単行本



アマゾンの評価のところを見てみて欲しい。
この本は表面上、レイプや戦争帰還者のPTSDを論じているように読める。裏返すとフェミニストと反戦主義者の告発本なのである。
問題になったのは女性の治療で、ハーマンとそのフォロワーの治療法はこうである。
1.「あなたは父親にレイプされた」と示唆する。
2.グループ・セラピーというカルトで、洗脳する。
3.過去に父親がレイプしたという記憶を持つ
3.父親を告訴する
その結果家庭は崩壊する。当初クライアント側が勝利していたが、次第に一部の心理学者が異論を唱え始め、今度は父親側がセラピストと娘を告発して勝つ事例が出る。そうすると心理学・精神医学学会がハーマンを批判し、特に法学会が「記憶だけでの判決」に批判的になる。
かくして、ハーマン派による告発は全部逆告発で退けられる。
これはほとんど1990年代に起こったことである。
とくにハーマンが完全に敗北したと認められたのは、ハーマン派のクライアントが、家庭が崩壊し、病状が悪化し、本来の目的である治療となっていないことが証明されたことであった。
フロイトでも、精神分析の内容は事実ではなく、想像の産物であることを認めていた。しかし、ハーマンは、ほとんど分析もなく、マインド・コントロールに近い形で、「父親によるレイプ」の記憶を事実として埋め込むことに成功していたのである。つまり児童期の記憶は作られるという、あんぐりの事実である。
いわば、心理療法の名を借りた反社会的自己啓発セミナーみたいな物である。
こんな事情が紹介されずに出版者が同書を出し続けているのはもっと批判されてよいのだが、ばかばかしいラカンの本も出されているので心理学は手の着けようがない。
ちなみに、アメリカの資格のある精神医やセラピストの大半は、フロイトを信じていないし、当然ハーマン事件は知っている。
日本でどうなっているのかとにかく怪しい。フロイトやラカンの本が多すぎる。
「危ない精神分析」の著者は、フロイトを同じレベルで批判してはいないが、無意識の原因を認めるのは著者自身は避けるという立場である。
原因論を回避するのは、アメリカの精神障害の分類でも同じである。しかしまだPTSDの名の下に原因論が復活していることに危惧の念を抱いている。
さて、ハーマン派の過ちのひとつは、「記憶を作る」ことであった。もうひとつは、「悪い」記憶に対して正義の治療を行うというスタンスであった。
なぜ治療に留まらず、訴訟に向かったかは、そのためである。
そこにあの手の着けようのないフェミニストがいるのは隠しようがない。フェミニストというのは、権力志向の一形態でしかない。そして精神分析家はまだ気付いていないようだが、患者を支配することを最大の治療の目的にしているのである。そこでフェミニスト精神分析が、たまたま取った形態が「父のレイプに対する告訴」だったと言うことである。
なお、フロイト信者がフロイトから逃れるのはかなり難しく、著者にもフロイトがひどい嘘つきであることを言い切るのに躊躇が見られる。ラカンで、リチャード・エヴァンスが取ったカルト脱会者的態度を参照のこと。

平行して、「W氏との対話」を読んでいる。「狼男」との晩年のインタビューである(紹介済み)。
もう笑っちゃうよ。フロイトったら。
posted by Kose at 16:41| 哲学社会科学エッセー